清掃人

現世に疲れた人々が集う深淵のプラザ。そこは、息苦しい世迷言の掃き溜めである。彼らは揮発性が高く、律儀で真面目な人ばかり。そうさ、賢人は豆腐の角に頭をぶつけて死ぬんだ。一瞬にして2000度の鉄のように蕩けたタンパク質を何度も見た。きっと彼らには、掃き溜めなど無意味だったのだと痛感し、ただの清掃人に過ぎない私が酷く落胆していた。この場所で、無数の単語からなる文章を弾丸のように放って、好きなだけ暴れて溺れて全てを忘れてまた現世に帰っていく人もいれば、何度も戻ってきたり、永遠にここに留まることを決めた人間もいる。でも、こんな陰気で暗い場所のことなんか忘れて掃き溜めから現世へ戻ってほしいと密かに願っていた。私は、何だったかな。もう忘れてしまったよ。そんなこと。そう思っていると、誰かがここに来た。ああ、常連の若い子だ。毎週のようにここに来て私に話をしてくれる。とても苦しそうで綺麗な青年。彼はこちらに歩み寄ってきた。

「ちょっと話を聞いてほしいんです」

「ええ、いいですよ。私のような清掃人で良ければ」

「誰もわかってくれないんですけどね、空の上にて憚かる無数のニンジンは僕を殴ってくるんです。メチルアルコールすら飲み込んで、エーテルは爆破し、夢を追いかけて踊ってるんですよ!怖くて怖くてね、ベッドから動くこともできなかったよ。」

私は一瞬困惑した。彼はとても苦しい思いをしている。だが、私の薄っぺらくて廉価な言葉が彼を壊してしまわないかと。その時、彼は続けてこう言った。

「僕は嬉しいです。本当に。」

「え?」

「だって、僕みたいな人間の話を真面目に聞いてくれたのはあなただけですから…。ここがどこから知らないしあなたが夢幻だとしてもきっと僕の唯一の理解者ですよ。」

「そんな、私は清掃人。これはただの業務なんです。それに、あなたは今、とても苦しそうでしたから…。」

一つ一つの単語が彼を傷つけないかと考えて考えて、出た稚拙な言葉。彼は笑みを浮かべつつも涙ぐんだ。物憂げで孤独な目は不意に私を引き寄せたが、やはりスッとガソリンの如く消えてしまったのだった。私は、このことが何日経っても何日経っても心に刻み込まれ夜も眠れぬ様であった。そして休まずにネットワークは全てをリンクさせ、この掃き溜めに捨てられた単語を流し込んで消化する。イルカは空で暴れ、草が凍土をも覆い、飛び跳ねるポストの列。満杯なポストを叩き壊し、夢をにじませたコンクリートが膜となり世界を包み込んだ。そんな暗黒を詰め込んだこの場所は光でできているのに光が届かない場所。暗黒だ。暗過ぎて嫌になる。そんな時、いつぶりに見たかもわからない眩い光が天から差し込む。

「僕も、こっちに来ちゃいました。黒服を纏った清掃人、かっこいいですね。」

結末はこれだ。彼もまた、豆腐のクッション上に飛び降りて下らない戯言でも吐きながらダイブしてきたんだ。今まで無念と失意に駆られたこのような出来事。だが、今回は全てがひっくり返り払拭された。まるで、過去の私のように、掃き溜めに住む前のあの時のように満面の笑みでこう言い放った。

「はじめまして。お帰りなさい!」

さあ、黒服を纏い、ほうきを手にしたなら、今日も私は清掃人だ。

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