π

数学のテストで86点を取ってしまった中学生、キャロル(本名:川井)。
「なぜ…90点ではない…?」
私は絶望しながら帰路についた。そして、答案用紙を思い返しながら、信号を待っているときふと思い出したのだ。πという文字を書き間違えたことを。いや、正確には間違えてなどいない!しかし答案には赤ペンで「これはπではなくпです。」と、書いてあった。意味が分からない。どちらも似たようなものではないか。今日の授業中、先生が「絶対に採点ミスなんてしてないと思いますが、ある人は来なさい。」といったので、私は真っ先に教壇へと走った。時速100㎞で。
「先生!πとпは何が違うというのですか?!そもそもпとは何ですか!?」
先生から予想外の答えが返ってきた。
「пというのはロシア語で使われるキリル文字です。つまり違う言語の文字。さらに、πは右側の棒ははねていますし、左側の棒は左はらいをするのです。あなたのπはそのように見えません。よって訂正することは認められません。」
はあ…はあああああああああああああ!?おかしい!そんなのおかしい!
「これはゴシック体なんです!それに人間は完ぺきではありません!先生の手には完ぺきにギリシャ文字のフォントがインストールされているというのですか?」
「あのね、ゴシック体のπでは左右の縦棒の感覚より上の横棒のほうが長いのです。川井君はそうじゃない。もうわかったね。いいからささっと席に着くんだ。」
先生は無言で黒板にお手本のようなπを書き、私を席につかせた。どうしても受け入れられなかった。私は嫌がらせのように、わざと不機嫌な顔をしてフルシチョフのごとく、机をドンドンと叩いた。同級生は私をにらみつつも先生は最初は無視していた。その様子にさらに腹を立てた。そして、私がπの描き方を間違えたのだという問題の解説に差し掛かった時、窓ガラスに鈍器を投げて叩き割った。同級生たちは唖然とし、先生は私のほうへ向かって歩いてきた。
「おい!川井!お前、さっきからいい加減にしろ!ギリシャ文字とキリル文字を書き間違える共産主義者のお前が悪いんだ。お前なんか邪魔だ!もういい、さっさと帰れ!」
普段、喜怒哀楽を露わにすることのない先生が激怒した。私はすかさず反撃した。
「嫌です。帰りません。大問4の(1)と(2)を〇にして点数を90点にしてくださるまで帰りませんよ!!」
先生はニヤリと笑い、再び教壇の上に立った。
「みなさん、川井君は授業を妨害していると思いますか?もしそうなら出て行ってもらおうと思います。はい、じゃあ川井君はいらないと思う人、手を挙げて!」
みんな手を挙げるはずがない。こんな理不尽極まりない人間に賛同するなど外道そのものである。そう思っていたのに…
「はい!川井君は邪魔だから出ていけばいいと思いまーす!」
クラス全員が一斉に手を上げ始めた。そして、大声で私の批判を始めた。絶対中立のスイスみたいな無口な女子でさえ声を上げて川井出てけ!と叫んだ。そうか、スイスも先生という名の連合よりなのか。枢軸をいじめる外道!悪魔!
「さあ、これが民意です。さっさと帰りなさい!」
私は怖くなり、教室を飛び出した。そして現在に至るというわけだ。どういう顔をして家に帰ればいいかも分からない。こんな点数じゃもうきっと高校なんていけやしないと罵られるに決まっている。もういい。こんな人生なら捨ててしまえ。私は最後に先生の家に火を放ち、学校を爆破してやると決めた。学校とともに死ぬ。そうして、親が返ってくる前に、家に財布を取りに行き、急いで火薬とマッチと油を買った。ネットを使用し、試行錯誤して、やっと準備が整った。私は先生の家を燃やし、歌いながら現場を立ち去る。そして数キロ先にある学校にたどり着いた。今にでも爆破してやりたくて仕方がなかったが、あの憎たらしい連合の手先どもも消えてしまえ。と考えた私は期待を胸に膨らませ、興奮が抑えられないまま公園で長い夜を過ごした。朝になって私はクマができた目を隠すように下を向きながらニコニコ笑って学校へと向かった。笑いが止まらないから、変な人間だと思われているかもしれない。でもどうせ死ぬんだ。そんなことはどうでもいい。私はついに学校内に入り、2-3の文字を見つけた。今からここが私の手によって消えてしまうことを想像すると私の気持ちは今までにないほど高ぶった。そしてついに、ドアを開く時が来た。
「ごきげんよう!死ね!」
私はあいさつをして起爆スイッチを押した。

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